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 「檸檬」は1925年(大正14年)1月に、同人誌『青空』巻頭に掲載された短編小説です。梶井基次郎っていう永遠の若者が書きました。なんで永遠の若者っていうかと言えば、梶井基次郎は32歳という若さで亡くなってしまったからです。32歳は若くないなんてことはありません、現代だと若者の部類に入るでしょう、多分。私がその年齢に近づいて来たからそういうことを言うのではありません。団塊の世代がまだ頑張って仕事してるから、その子どもたちであるアラ30はまだ若者、と主張したい、それだけのことです。ていう気分で、32歳の梶井は若者、反論は認める、みたいな。
 
 「檸檬」には、壮大なテーマや大恋愛なぞは描かれていません。かつて好きだったものにあんまり愛着を持てず、町の中をふらふら散歩しながら遠くへ行きたいと思い妄想だけは遠くの町に飛ばしている、そんな肺病の若い子が、それでも興味をひかれる果物屋とか描写してみたり、うんざりして嫌いになっちゃった丸善(本屋)に行って画集を見ようとしてみるもののやっぱりうんざりしてて見る気にならなくてそれらの画集を積んで上にレモンを乗っけて外に出て、丸善爆破ーって一人で悦に入ったりしてる、みたいな、書き方をしてしまうと身も蓋もないけどこういうような話を素敵文体でつらつら書いてある、そういう小説です。
 
 少しだけ、前から順に見てみましょう。長くなるから今日は冒頭の部分だけ。
 
 主人公「私」は、冒頭から「えたいの知れない不吉な塊」に「心を圧えつけ」られる気分で、「焦燥と言おうか嫌悪と言おうか」みたいな気分ですから、これはもう鬱だーとしか表現できない私の気分をこうもわかりやすく説明してくれるなんて師匠と呼びたい気分です。あ、この主人公「私」は、梶井に見えちゃいますが、一応違うって方向で話を進めますね。どれだけ梶井に見えても、梶井の実生活にまったく沿っていたとしても、この作品がエッセイではなくて小説であると思って話をする以上、この「私」は梶井ではなくて、「私」っていう登場人物です。
 
 「肺尖カタルや神経衰弱がいけないのではない」、「いけないのはその不吉な塊だ」ってわけで、この心を圧えつけてくる不吉な塊は「神経衰弱」ではありません。「神経症」って私が呼んじゃうところの、鬱病とか抑鬱状態とか、そういう現代的な病気です。どう違うかっていうと、以下の感じ。
 
 「神経衰弱」は明治時代の病気で、男の病気です、対応する女の病気は「ヒステリー」であろうかと思います。この辺は夏目漱石読んでるとよく出てきます。抑鬱状態とかは現代の病名ですが、この時代だと「憂鬱」とか呼ばれているみたいです。「憂鬱」は、大正六年の佐藤春夫「田園の憂鬱」でデビューした(多分)当時の若者に流行した言葉っていうか流行った気分で、この時代学校に行って高等遊民化しちゃった若者はみんな憂鬱だったみたい。
 
 明治時代の若者は「立身出世」とか言いながら頑張って勉強して(無理な子は早々にいなくなる感じかな?)、国家と個人の目標が概ね一致していたみたいです。日露戦争後、個人主義の時代に入って、人はみな個人の欲望や快楽を追求するようになるようです、若者だって多分同じ。若者は就職先もあんまりないし国家のために働くとかなんか違う気がするしみたいに高等遊民化して、個人の部屋に引きこもり、憂鬱な気分で過ごすようになります。っていうのがこの時代のざっと大筋、って感じだけど、この若者の図って、現代と同じですよね、なんとなく。あ、若者若者って言ってますが、小学校だけじゃなくて上の学校に行ける若者のことです。国とか会社とか全体のために働くとか馬鹿馬鹿しい時代になっちゃってたくさんの若い子がニートとか働きたいのに働けないとかいろいろ、うちの中で憂鬱な気分で過ごしてる、みたいな。働いてる子は働いてるんだけど、働いてない子は働いてない。そしてみんな憂鬱。そんな感じ。
 
 さらに、「神経衰弱」は身体を抑圧して頭をクローズアップした感じの知識人の病気、「憂鬱」は病によって身体が可視化される若者の病気、みたいな感じで、現代の抑鬱状態とか境界例の方向の神経症は後者の流れ、多分。この辺は先輩に教えてもらったことを私の拙い頭で理解したまとめなんだけど、間違ってたらごめんなさい。
 
 ていうわけで、現代に通じる若者の感覚「憂鬱」を詩的に表現すると、「檸檬」冒頭の「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた」になるわけです。
  
 久しぶりに文章書いたから、いつも以上にごちゃっとしてますけど、ごめんなさい&ありがとう、読んでくれた方。

 

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